WHATISAI|第3章
なぜ毎回、
答えが違うのか
まったく同じ質問なのに、AIは昨日と今日で違うことを言う。バグでも気まぐれでもありません。 これは設計です。確率から一語を「選ぶ」その瞬間に、わざと“ぶれ”を入れているのです。
あれ? と思った、あの瞬間「さっきと言うことが違う」問題
キャッチコピーを3案もらおうと、同じ指示を3回出す。すると毎回ちがう案が出てくる。便利な反面、「で、結局どれが正解?」と不安にもなる。なぜ、同じ入力で出力が変わるのでしょうか。
第1章で見たとおり、AIは次の一語の確率を並べます。問題はその先。いつも最高確率の語を選ぶとは限らないのです。確率に応じて、サイコロを振るように選ぶ。だから、2番手・3番手の語が選ばれることもある ── これが毎回ちがう理由です。
仕組みを見るtemperature = 答えの「ぶれ幅」のつまみ
この“ぶれ”の大きさを決めるのが temperature(温度) という、たった一つの数字です。低くすれば堅実でいつも同じ、高くすれば多様で意外。実際に、つまみを動かしてサイコロを振ってみてください。
中温:そこそこ安定、たまに変化
※ 確率は固定スコアからの計算イメージです。実際のサンプリングは Top-k / Top-p などの工夫も併用します。
だから、経営の現場では仕事ごとに「つまみ」を選ぶ
毎回ちがうのは、欠陥ではなく使い分けの対象です。仕事の性質で、ほしい“ぶれ幅”は変わります。
事実の要約・データ抽出・規程の確認
ブレてほしくない仕事。毎回同じ・堅実な答えがほしい場面。
アイデア出し・コピー案・ネーミング
多様性こそ価値。意外な飛躍がほしい場面。3案ちがうのは、むしろ正解。
「契約書から金額だけを正確に抜き出す」作業。temperature は高め・低めどちらが向く?
発展発展:temperatureの数式・Top-k / Top-p・なぜ完全には固定できないか▼ 数式が苦手な方は飛ばしてOK
① temperature の数式:第1章の出力softmaxで、ロジット を温度 で割ってから確率にします。
で最大ロジットの語に確率が集中(=ほぼ決定的、greedy)。 を上げると分布が平らになり、多様性が増します。 は素のsoftmax。
② Top-k / Top-p(核サンプリング):温度だけだと、低確率のおかしな語まで稀に選ばれます。そこで「上位k語だけ」(Top-k)や「累積確率p%までの語だけ」(Top-p / nucleus sampling)に候補を絞ってからサンプリングするのが実務の標準です。
③ greedy / beam search:毎回最確の語を選ぶのが greedy。複数の候補系列を並行保持して最良の文を探すのが beam search(翻訳などで使われる)。
⚠ 正確性の注記: でも、出力が完全に毎回同じになるとは限りません。並列計算による浮動小数点の順序差や、MoEのルーティング、サーバ側の最適化などで、わずかな非決定性が残ることがあります。「温度ゼロ=厳密に決定的」と言い切るのは正確ではありません。
毎回ちがうのは、バグではなく設計。
temperature は、ぶれ幅を選ぶ「つまみ」。
── 次にAIがブレて困ったら、思い出してください。「これは確実さがほしい仕事か、多様さがほしい仕事か」。つまみを意識するだけで、付き合い方が変わります。